産経新聞大阪夕刊に「あなたの日本語大丈夫?」というタイトルで1年半にわたり掲載されたコラムの中からいくつかご紹介します。日々、若い人たちと話したり電車の中で見かけたりすることの中から、ことばにまつわることを、あれこれ思いつくままに書いたものですが、そんな中に話しことばの酸いも甘いも・・・が息づいているのではないかとも思うのです。
特集: あなたの日本語大丈夫?
2017年5月 1日
好意を持っている人から「あなたが好きです」と言われたら、とてもうれしいでしょう。でも、「あなたも好きです」と言われたら? ちょっと複雑な気分で素直に喜べないのではないでしょうか。「あなたも好き」は、他にも好きな人がいる、というニュアンスを含んでいるからです。
人にほめられるとき「あなた、字は上手ね」と言われるのと、「あなた、字も上手ね」と言われるのと、どちらがうれしいですか?私なら「あなた、字も上手ね」の方がうれしいのです。
なぜならこの言い方は「歌も上手だけど...」とか「性格もいいけど...」など他にもほめるところがある、ということを意味するからです。
「字は上手ね」。このほめ方の裏には「他はたいしたことないけど」とか「文章は下手だけど」などという気持ちが隠されています。たった一文字違うだけで言われたほうの気持ちもずいぶん変わってきます。
こういう例は毎日の暮らしの中にも多くみられます。よその家を訪問したとき「お茶がいいですか。それともコーヒーがいいですか」と聞かれて「お茶でいいです」と答えた経験はありませんか。「お茶でいいです」という返事は「本当はコーヒーが飲みたいけど、お茶で我慢しておこう」という気持ちだと受け取られてしまうことがあります。本人は遠慮しているつもりでも、やはり失礼にあたります。本当にお茶が飲みたいのなら、「お茶をお願いします」とか「お茶がいいです」と言う方がいいでしょう。
また、同じ言葉でも一字カットすると別の意味になることがあります。「おしゃべり」は楽しいけど「しゃべり」は嫌われるかもしれませんね。私は「おにぎり」も好きですが、お寿司屋さんで食べる「にぎり」はもっと好きです。みなさんはいかがですか。
濁点がつくとイメージがすっかり変わってしまう言葉もあります。私はいつまでも「キラキラした目」で「さらさらの髪」を保ちたいと願っていますが、「ギラギラした目」で「ざらざらの髪」になったら、どうしましょう?