産経新聞大阪夕刊に「あなたの日本語大丈夫?」というタイトルで1年半にわたり掲載されたコラムの中からいくつかご紹介します。日々、若い人たちと話したり電車の中で見かけたりすることの中から、ことばにまつわることを、あれこれ思いつくままに書いたものですが、そんな中に話しことばの酸いも甘いも・・・が息づいているのではないかとも思うのです。
特集: あなたの日本語大丈夫?
2016年11月 1日
人間は自分の頭の中にある考えや思いを、「ことば」という記号に変え、伝え合ってコミュニケーションをしています。人類は、ことばを持つことによって今日の文明、文化を築いてきました。
ことばの歴史は4万-10万年前、ネアンデルタール人が出現してからといわれています。文化の歴史はせいぜい1万年前後。「はじめにことばありき」という聖書のことば通り、まずことばがあって、文化が発達したのです。
ことばこそ、他の動物と一線を画す、人間のアイデンティティといえるでしょう。
さて、ことばには「読む」「書く」「話す」「聞く」という4つの領域があり、これを4つの言語活動といっています。
このうち「読む」「書く」は、文字を媒介とする文字言語?書きことば、「話す」「聞く」は、音声を媒介とする音声言語?話しことばです。
書きことばは、目で見ることができるので視覚的、具体的です。何度も読み返し、ゆっくり考え、推敲することができるので、論理的に組み立てられた、筋道の立った文を作ることができます。文を作るのは、読み手を想定しながら一方的、間接的に行われる作業です。
これに対して話しことばは、聴覚的、抽象的です。話し手と聞き手の相互作業により話が進められることが多く、原則として直接的です。文は比較的短く、組み立ても単純で、論理よりも、気持ちの察し合いや、表情やアイコンタクトなど、ことば以外のものの影響も多いのです。書きことばの知的活動に対して、話しことばは感覚的活動ともいえるでしょう。
ことばの始まりは話しことばでした。
話しことばは瞬間的に消えてしまうので、それを記録し、保存するために文字ができたのです。世界中には少数民族のことばも含めて3千以上の言語がありますが、その半分くらいは文字を持たない話しことばだけの言語です。
残念ながら、話しことばは音声を手段としますので、定着性がなく不安定ですが、文字には現れない抑揚やリズム、ポーズ、声の高低、強弱、緩急などによって、豊かな表現をすることができます。
生身の人間の体温のある声が直接的に迫る、話しことばはまさに声の表現力が主役、声の表情や暖かさをことばにのせて魅力的に話したいものです。