産経新聞大阪夕刊に「あなたの日本語大丈夫?」というタイトルで1年半にわたり掲載されたコラムの中からいくつかご紹介します。日々、若い人たちと話したり電車の中で見かけたりすることの中から、ことばにまつわることを、あれこれ思いつくままに書いたものですが、そんな中に話しことばの酸いも甘いも・・・が息づいているのではないかとも思うのです。
特集: あなたの日本語大丈夫?
2016年5月 2日
結婚式のスピーチは、新郎新婦の衣装やごちそうと並んで、場を盛り上げる重要なものです。それぞれのスピーチが感銘深く、楽しく、新郎新婦の人柄がほほえましく感じられるものだと、その披露宴はとても和やかで、温かい雰囲気に包まれます。
スピーチのコツは、一にも二にも十分な準備と練習です。
何の準備もせず、行き当たりばったりで素晴らしいスピーチができるのは、よほど場数を踏んだ人か、天性の話し上手な人でしょう。
さて、どんな話をどのようにするのか、まず新郎(新婦)の「良いところ探し」をしましょう。今までのおつき合いの中から、その人の、人となりがしのばれるようなエピソードなど、あなたならではのとっておきの話の材料を探してください。
ある席で新郎の叔父さまが、「進はやさしい子で、妹が生まれるととてもかわいがって、ちょっと泣いても『おっぱいがほしいのと違うの』と、心配そうに母親に聞いていました」とスピーチなさいました。ただやさしい、というだけでなく、エピソードが入っていると、様子が目に浮かびますね。
前もって原稿に書いて準備したりすると、生(なま)のいきいきした迫力がなくなる、という意見もありますが、私はやはり一度原稿を書いてみる方がよいのでは、と思っています。文はできるだけ平易な話しことばで、漢語より和語を使ってわかりやすく、エピソードも入れて具体的に・・・。
実際、文にしてみると、思っていることがなかなかうまく表現できず、もどかしい時もあります。でも文に書くと、何度も読み返して書き加えたり、削ったり(これを推敲する、といいます)して、話の筋道が通っているか、わかりやすいか、など確かめることができます。スピーチの長さは3分くらい、長くてもせいぜい5分ぐらいが適当です。3分のスピーチなら、漢字、仮名まじりで1000字くらいが目安です。
そして当日は原稿を見ないで話せるよう練習しましょう。家族や友人に聞いてもらったり、鏡の前で笑顔で自然に話せるよう練習したりするのも良い方法です。忙しい中でも時間を見つけ、準備するのが、お招きくださった方への誠意です。そして、その経験が次のあなたのスピーチを、一層ステップアップさせることでしょう。