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一房の葡萄(1)

僕は小さい時に絵をかくことが好きでした。僕の通っていた学校は横浜の山の手という所にありましたが、そこいらは西洋人ばかり住んでいる町で、僕の学校も教師は西洋人ばかりでした。そしてその学校の行きかえりには、いつでもホテルや西洋人の会社などがならんでいる海岸の通りを通るのでした。通りの海沿いに立って見ると、真青な海の上に軍艦だの商船だのが一ぱいならんでいて、煙突から煙の出ているのや、檣から檣へ万国旗をかけわたしたのやがあって、目がいたいようにきれいでした。僕はよく岸に立ってその景色を見渡して、家に帰ると、覚えているだけを出来るだけ美しく絵に描かいて見ようとしました。けれどもあの透きとおるような海の藍色と、白い帆前船などの水際近くに塗ってある洋紅色とは、僕の持っている絵具ではどうしてもうまく出せませんでした。いくらかいてもかいても本当の景色で見るような色にはかけませんでした。

青空文庫 有島武郎「一房の葡萄」より

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